世界遺産・知床連峰「羅臼岳」登山記|往復10時間”熊の湯ルート”を日帰りピストン
- 網走・北見・知床
- 最終更新日:2021年1月29日
世界自然遺産に登録されている知床半島、その屋根となる知床連山の最高峰です。私にとっては兼ねてから憧れの地でした。
2016年の夏、北海道を自転車で旅していた学生の私は、この知床を訪れることを目標にしていたものの、台風の影響で叶わず。就職後、短い休日を楽しむ方法として、登山に熱中するようになると、より一層あのとき辿り着けなかった未踏の大自然への想いが増すばかりでした。
そしてようやく2020年の夏、4年越しに私の夢であった「羅臼岳」へ登頂できたので、そのレポートを寄稿しようと思います。
日帰り8時間以上という過酷な内容でしたが、これ以上ないアドベンチャーに浸ることができました。
より手付かずの大自然を求めて「熊の湯ルート」を選択
羅臼岳には主に2つの登山ルートがあります。
・岩尾別ルート(斜里町側)/往復約15km・6時間半〜8時間
・熊の湯ルート(羅臼側)/往復約18km・8時間〜11時間
いずれも山頂までの標高差は1500m以上もあり、ロングコースのため中々ハードな内容。
登山者の9割以上は岩尾別ルートを登るのですが、私はあえて「熊の湯ルート」を選択。
理由は「世界遺産の大自然を独り占めしたいから」。
ヒグマに会わないか!?ビクビクしながら、いざ冒険へ出かけました。
羅臼温泉野営場をスタート!
今回登ってきた登山口の起点となるのは、その名の通り「熊の湯」。
羅臼の人々に愛される名物温泉で、羅臼の市街地からは車で10分もしない場所にあります。
羅臼温泉野営場というキャンプ場が隣接しており、そこに登山口が設置されています。登山届けを提出したら、早速スタート。
まずは標高150mから少しずつ深い樹林帯を登っていきます。熊が出ないか心配性の私は、所々声を張り上げていました(笑)
※ヒグマ対策は記事の後半に
緑濃く木漏れ日が気持ち良い道は、心を癒してくれます。周囲には、他に一人も登山者がおらず、聞こえるのは木々の葉掠れの音と、野鳥の声だけ。序盤から、大自然に身を投じている感覚を存分に味わうことができました。
里見台
スタートから30分ほど、里見台というポイントを越えると、次第に景色が開けてきます。左手には知床連峰南部と、世界遺産の自然を走る知床横断道路のパノラマ。
標高はまだまだ数百m台というところが、さすがは「知床」。この写真に収まりきらないスケールには圧倒されます。
なお知床が世界遺産となっている主たる理由は、海から山まで原生の自然が手付かずで残っているということ。今回登っている「熊の湯ルート」は、まさにその知床の世界観をなぞっていく登山道と言えるでしょう。
海に近い登山口から樹林帯へ、高山の特徴である森林限界を越えて、本州の標高3000m級同格の気象条件を備える知床最高峰「羅臼岳」を目指す。そんな”標高差の旅”に思いを馳せながら、好奇心の赴くまま歩いていきます。
樹林帯のトラバースから渓谷
さて、熊の湯ルートの中盤は、樹林帯のトラバース。道が狭く、笹で覆われてわかりにくいので、足を踏み外さないように注意が必要です。
スタートから2時間弱、樹林帯トラバースを越えた先に待っていたのは、美しい渓谷でした。鮮やかな緑と巨岩の間を縫うように、コンコンと水が流れ落ちています。よく見ると岩肌は赤褐色で、水も真っ白。知床連峰の火山活動を物語っています。
渓谷の轟音にしばし耳を傾けながら、優しい風を感じます。夏でも涼しい知床ですが、この日は35度にもなる真夏日でした。
そんな渓谷を登ると、ようやく中間地点と言える「泊場」へ。名前はテント場っぽいのですが、宿泊はできないので要注意。ヒグマの住処である羅臼岳周辺は、基本的に日帰りが前提です。
屏風岩
ここまで来ると、羅臼岳の山容が眼前に迫ってきます。海から一気に立ち上がる知床連峰では、雲が生まれやすく、山頂が隠れていることもしばしば。
そして泊場から再び樹林帯を越えて、森林限界の山肌へと取り付けば、いよいよ劇的に景観が変わっていきます。
まずは圧倒的なスケールで佇む「屏風岩」。海の向こうには北方領土の「国後島」が広がります。引き込まれる高度感に思わず鳥肌が立つことでしょう!
屏風岩を登り切れば、今まで進んできた渓谷を見下ろす。羅臼の町があんなところに!「いよいよ、こんなところまで来たのか!?」と達成感に浸れます。
普段眺めることはない世界遺産のパノラマビュー!この景色を独り占めできるのも「熊の湯ルート」の醍醐味です。
羅臼平感動の「羅臼岳」へ登頂!
登山開始から4時間後、「羅臼岳」の中腹にある鞍部・羅臼平(7合目)へと到着。今までは登山者は皆無だったものの、ここで岩尾別ルートと合流するため、一気に人気が増えます。
先ほどまで少し雲が出て、眺望が途切れたものの、サッと晴れた瞬間に振り返ると、そこには感動の絶景が!オホーツク海と根室海峡に挟まれ、知床連峰の最奥部・硫黄岳がそびえています。緑と青の鮮やかな対比が堪らず、思わず立ち尽くしてしまいました。
そして「羅臼岳」山頂へラストクライム!森林限界からガレ場へと取り付きます。全身を使い、足場をしっかり確保しながら確実に登ることが必要です。また狭い道に登山者が集まるため、譲り合いについても意識しましょう。
あの岩稜の先にたどり着けば、いよいよ世界遺産・知床の頂です。
そして羅臼平から約30分、登山開始から4時間弱で、羅臼岳に登頂!4年越しの夢だっただけに、この上ない達成感と充実感に浸っていました。
しかしながら天気は快晴なのに、羅臼岳の山頂だけが悪天候。ほとんど眺望がないことだけが心残りでした。諦め切れなかったので、吹き飛ばされそうな暴風と、夏とは思えない低気温に耐えながら、1時間だけ待つことに。
すると一瞬ではあるものの、ところどころ雲が晴れ、そこにはここでしか眺められない最高のパノラマが広がりました。雲を纏っているからこそ、よりダイナミックで神々しい大自然を感じられた気がします。
これにて羅臼岳への大冒険は終了…ではありません!ここから辿って来た道を折り返すことになります。下山も9kmもあり、中々エクストリームですが、圧倒的な自然を最後まで味わいましょう。下山後は、熊の湯という最高の温泉が待っています。
羅臼岳登山成功のためのアドバイス
・10時間歩行できる体力が必要です。
・水分補給できるところが山中にないため、水を多めに持参すること。
・食料も十分に持参すること。
・歩きやすい服装と登山靴が必須。
・登山届けをあらかじめ自治体のホームページでコピーし、記載しておくこと。
・熊対策として熊鈴や熊スプレーを用意すること。
・熊に会わないように手を叩いたり、声を出しながら歩くこと。
・登山口から泊場までのトラバース、屏風岩近くの急斜面、山頂付近のガレ場では、足運びによく注意すること。
・遅くとも日没の4時間前には下山を開始すること。
羅臼岳で特に気を付けたいのがヒグマ対策。
私が行ったのは
①熊鈴をザックにつける
②見通しが悪いところでは手を叩き、声を出して通過する
③臭いのある食べ物を持参しない
熊撃退スプレーもあれば心強いですが、だいたい¥10,000ほどの値がはるもの。
熊撃退スプレーのレンタルもありますので、ご興味がある方はご参照ください。
参照:知床財団 クマ撃退スプレーのレンタル~ヒグマ対処法
おわりに
いかがでしたか?今回は知床最高峰「羅臼岳」に登ってきた体験記をご紹介しました。決して楽ではないもの、自然とダイレクトに向き合いながら、随所で感動と出会える世界遺産の山。ぜひ体力と装備を万全に、挑戦してみてはいかがでしょうか?
<羅臼岳/熊の湯ルートの基本情報>
住所:北海道斜里郡斜里町湯ノ沢町
アクセス:羅臼温泉野営場まで車で
女満別空港から約3時間
中標津空港から約1.5時間
登山口から山頂まで徒歩往復8時間〜11時間
■詳細(以下は標準タイムです)
羅臼温泉野営場(60分)→里見台(50分)→第一の壁(70分)→泊場(60分)→屏風岩(80分)→羅臼平(25分)→標識(35分)→羅臼岳(25分)→標識(20分)→羅臼平(50分)→屏風岩(45分)→泊場(60分)→第一の壁(30分)→里見台(40分)→羅臼温泉野営場
日本深掘りサイクリスト・フォトグラファー 土庄雄平
1993年生まれ、愛知県豊田市出身。同志社大学文学部文化史学科・英文学科卒。サラリーマンの傍、自転車旅&登山スタイルで、日本各地を駆け巡るトラベルライター。 四季折々の日本を五感で捉え、発信しています。
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