二風谷アイヌ文化博物館~千点以上ものアイヌ民具が物語るアイヌの生活・文化
- 十勝・日高
- 最終更新日:2024年7月4日
北海道の市町村名の8割はアイヌ語に由来しており、北海道を語る上では不可欠なアイヌ文化ですが、その文化を深く知る機会は思いのほか少ないのではないでしょうか。
北海道の中でも、平取町二風谷(びらとりちょうにぶたに)は現在もアイヌの伝統が色濃く残る地域です。
この二風谷にあるアイヌ文化伝承の拠点「二風谷コタン」には、今回ご紹介する「二風谷アイヌ文化博物館」含め複数の関連施設や景観も合わせて、アイヌ文化を身近に感じられるスポットとなっています。
1.4つのゾーンで学ぶアイヌ文化
千点以上にもおよぶ二風谷アイヌ文化博物館の展示は、アイヌ民族で初めて国会議員になった萱野茂さんがアイヌ文化を残すために半世紀もかけて収集した民具や自ら復元制作したものが基盤となっています。萱野さんのコレクションのうち1,121点は重要有形民俗文化財 の指定を受けており、二風谷アイヌ文化博物館で919点、残りの202点は同町内にある萱野茂二風谷アイヌ資料館が所蔵しています。
展示は、「アイヌ」人びとのくらし、「カムイ」神々のロマン、「モシㇼ」狩猟や農耕、「モレウ」アイヌ文様の美しさの4テーマごとにゾーンに分かれています。
1-1. 「アイヌ」人びとのくらし
アイヌの人々の生活の様子を伺うことができる「アイヌ」のゾーン。ゆりかごや彫り物、衣服、料理道具や娯楽品などの展示がずらりと並びます。
沙流川(さるがわ)流域のラㇺラㇺノカ(うろこ彫り)は100年以上もの歴史があるとされているそう。
文様と文様の間にウロコのような彫りがあるのがわかりますか?
用途によってサイズや形が全然違うマキリ(小刀)の展示がありました。メノコマキリは女性用のマキリで男性が女性にプロポーズする際に自分で彫ったマキリを贈るそうです。
アイヌ刺繍が施された衣服や鹿の皮を使用した防寒着。
料理に使う道具の中で目を引いたのはキハダの木や白樺の樹皮で作られた椀や器。
樹皮の鍋は水を入れて火にかけて湯を沸かすことでその後何度も使えるようになります。
日用品のひとつひとつに施された刺繍や彫り物。
きっと装飾がなくても道具としては使えるのでしょうが、このみごとな手仕事には使う人の安穏無事を願う想いが込められているような気がしてきます。
1-2.「カムイ」神々のロマン
祈りや信仰、伝説などの精神文化を展示する「カムイ」のゾーン。「カムイ」は神様という意味で、神様は生き物や自然、道具や自然現象などあらゆるもののことを指します。
チセ(家屋)に見立てた柱が並ぶスペースの前ではアイヌの神謡や昔話などをアイヌ語で語っている映像を字幕付きで見ることができます。
イオマンテ(熊送り)の儀式で使われる道具たち。
木の棒に熊の頭蓋骨が載っています。イオマンテは自然に対する感謝を示す儀式でもっとも大切にされているおまつりです。
お祈りをする時に使われるトゥキパスイ(捧酒箸)。約30㎝ほどの細長いヤナギなどの木にも細かい彫刻が施されています。
首飾りや耳飾りなど装身具。耳飾りは男女関係なく、首飾りは女性だけが身につける装身具だそうです。
カムイへの敬意を表す儀式を大切にしていたアイヌの精神文化からは、今あるものを当たり前と思わず敬意や感謝を大切にするというどの時代にもどんな人にも必要なことを学びました。
1-3. 「モシㇼ」大地のめぐみ
農耕や狩猟、運搬など大地のめぐみに関連した展示の「モシㇼ」のゾーン。北海道の厳しい大地で生き抜くアイヌの方々の知恵を知ることができます。
仕掛け弓や罠を実際に使ってみることができる体験スペースがありました。手前がヒグマやエゾシカに使う仕掛け弓、奥はクロテンを捕まえるための罠です。
狩猟で使う弓や矢羽などの道具の前にはカケスを捕まえるための罠の体験スペースもありました。
鮭の皮で作られた靴。どうやって作るのか作り方が気になります。
動物の膀胱を使った水入れ袋。思わぬものが材料として使われていて驚かされます。
川を渡るために欠かせない手段として使われていた丸木舟。毎年8月20日前後には二風谷で「チㇷ゚サンケ」という船おろし祭りが開催され、沙流川で丸木舟の川下り体験ができます。
アイヌの伝統工芸品の技術は現在でも受け継がれ、活躍している作家さんたちの作品も見ることができました。
今の時代は人だけが生きやすくするために自然にないものがたくさん作られていますが、アイヌの方々のように人も自然の一部として共生した生き方をすれば環境破壊などの問題はなかったのかなと考えさせられます。
1-4.「モレウ」造形の伝承
ひときわ美しいアイヌ文様が施された民具を展示する「モレウ」のゾーン。アイヌ文様は北海道遺産にも登録されていて、モレウとは渦を巻くように描かれる穏やかな曲線のことです。
直径60㎝もあるイタ(盆)。
アイヌ刺繍が綺麗なマンタリ(前掛け)。
独創性があり、デザイン自体も美しいですがそのデザインを再現する技術の高さにも驚きを隠せません。
アイヌ民族の正装は服装に男女の違いはなく、持ち物に違いがあり、男性は刀、女性は玉飾りで装飾するそうです。
アットゥㇱ(オヒョウなどの樹皮の内皮で糸から作られたアイヌの織物やそれからできた着物)などが20以上収納されている展示スペース。
刺繍や彫り物をじっくりと見られる空間はまるで美術館で芸術作品を見ているような気分。
おわりに
博物館がある「二風谷コタン」にはチセ(家屋)の中でアイヌの手仕事である彫り物や織物を製作している様子を見学することもできます。
敷地内には地域のアイヌの工芸品が販売されている「アイヌ文化情報センター」や「沙流川歴史館」、国道を挟んで向かい側には「萱野茂二風谷アイヌ資料館」、工芸家さんたちの作業場である「ウレㇱパ」などもあります。
博物館の西側にはある、にぶたに湖。湖の向こうにはアイヌの方々の採取の場だった山々が見え、アイヌの伝承地がいまだに残っています。
博物館を見てから二風谷コタンを散策すると、見える景色がガラリと変わります。
二風谷コタンは、アイヌ民族のヒロインが活躍するアニメ「ゴールデンカムイ」の聖地の一つしても知られてます。作品が好きな方にもぜひ訪れていただきたいスポットです。
二風谷ではアイヌに関するお祭りやイベントが定期的に開催され、どなたでも気軽に参加することができます。
今もなお大切にアイヌ文化が受け継がれているまちにある博物館でアイヌ文化が昔の話や特別な存在ではなく、もっと身近に日常の中に対等に存在するものとして感じることができました。
- 住所
- 北海道沙流郡平取町二風谷55
- TEL
- 01457-2-2892
- 営業時間
- 9:00~16:30 休館日:12月16日~1月15日全日および冬季間(11月16日~4月15日)の月曜日
- 備考
- 入館料 大人400円 小・中学生150円
北海道在住フォトグラファー 平栗玲香
1990年生まれ、北海道帯広市出身のフリーランスフォトグラファーです。北海道観光マスター検定、十勝観光文化検定上級、フォトマスター検定準1級、生物分類技能検定3級取得。9年間東京でフォトグラファーをしていましたが、2023年に帯広に拠点を移しました。趣味はツーリング、ドライブ、キャンプなど北海道の魅力が一人でも多くの人に伝わることを目標に記事を書いています。
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